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POM樹脂の特性・耐久性・強度を徹底解説:部品設計で失敗しないための完全ガイド

POM樹脂の特性・耐久性・強度を徹底解説:部品設計で失敗しないための完全ガイド

設計図に「POM樹脂」と記されていて、具体的にどのような特性を持ち、なぜ強度や耐久性に優れているのか疑問を抱いたことはありませんか?本記事では、POM樹脂の特性、耐久性、強度を深掘りし、実務でどう活用できるかまでを詳しく解説します。

POM樹脂とは:基礎知識と材料背景

POM(ポリアセタール/ポリオキシメチレン)は、エンジニアリングプラスチックの中でも高い剛性と耐摩耗性を特徴とする素材で、「金属に匹敵する比強度・比剛性」と言われることもあります。日本国内の規格では、JISで定義されており、材質表示や仕様確認の際にもこの規格知識が役立ちます。
設計段階で「POM」とだけ記されていても、グレードや加工履歴、含有フィラーの有無などで特性が大きく変わるため、背景を理解することが重要です。

POMの主な特性:強度・耐久性・寸法安定性

POM樹脂が部品設計で選ばれる理由は、主に以下のような特性群にあります:

  • 高い機械的強度・剛性:比強度・比剛性ともに優れ、構造部品用途にも用いられます。例えば、あるデータでは引張強度約60~70 MPa、密度約1.41~1.44 g/cm³と報告されています。
  • 優れた寸法安定性・低吸水率:吸水率が一般的に0.2〜0.5%程度で、湿度変化による寸法変動が小さいです。
  • 優れた耐摩耗性・低摩擦特性:摺動部・ギア部・ベアリング部など摩耗が懸念される用途で活躍します。

物性データの具体例

代表的な物性例
項目             値(参考)        単位
引張強度         約60〜70           MPa
密度             約1.41〜1.44       g/cm³
吸水率(24h)    約0.2〜0.5         %
硬度(ショアD)   約75〜80            –

これらの数値を基に、「この部品にこの材料で問題ないか」を判断することが可能です。さらに高強度仕様(例:ガラス繊維入り)では、引張強度90MPa超という仕様もあります。

耐久性の観点から見るPOMの強みと限界

耐久性とは、長期使用時における強度の維持・摩耗・疲労・寸法変化などを総合的に捉えた概念です。POM樹脂は金属代替材料として用いられることも多く、その耐久性を設計に活かすためには以下のポイントを押さえる必要があります。

強み:摩耗・疲労・寸法安定性

POMは摩耗量が少なく、滑り性も良好なため、ギアや滑り部品などの摺動用途に適しています。また、低吸水率ゆえにクリアランス維持が容易で、時間が経過しても寸法変動が少ないというメリットがあります。

限界:耐熱・耐薬品・極環境対応

ただし、すべて万能ではありません。例えば、耐熱性能や耐薬品性が極めて高い素材(例えばPEEKなど)に比べると限界があり、使用環境に応じて補正設計が必要となります。また、グレードや充填材による特性差が大きいため、仕様書確認を怠ると予期せぬ劣化・変形のリスクがあります。

設計・加工視点で押さえるべきPOMの使い方

実務でPOM樹脂を使う際、ただ「強い」と「耐久性が高い」と認識するだけでは安心できません。以下の設計・加工視点を通じて、失敗しない材料選定を実現しましょう。

設計チェックリスト

  • 材質表示に「POM」「ポリアセタール」「POM-GF」「POM-共」など具体グレードが明示されているか確認
  • 使用環境(荷重・回転・温度・湿度)の実態を数値で把握し、クリアランス・摩耗寿命をシミュレーション
  • 加工性(切削・フライス・成形)を考慮し、素材硬度・仕上げ要求・後工程を検討
  • フィラー(ガラス繊維・潤滑剤)入りかどうかで強度・剛性・摩擦特性が変化する点を確認

加工上のポイント

POM樹脂は比較的加工しやすい素材ですが、以下の注意点があります:

    • 切削時の熱発生とバリ発生に注意が必要です。硬度が高く、滑り性があるため工具摩耗が進みやすい。
    • 寸法安定性が高いとはいえ、温度変化・湿度変化による膨張・収縮がゼロではありません。実装環境を加味したクリアランス設計が重要です。
    • 仕上げ後の検査・仕上げ磨き・洗浄工程を設けることで、長期使用時の摩耗・疲労傷害を抑制できます。

加工条件や改質グレードについては、POMの加工条件に関して解説で詳しく紹介しています。

用途別に見たPOMの強度活用事例

具体的な活用用途別に、POM樹脂がどのように“強度”と“耐久性”を発揮しているか事例を交えて紹介します。

用途分野 部品例 活かされる特性
自動車部品 ギア、ベアリング、シート構造部材 高強度+低吸水率+耐摩耗性
OA機器・精密機器 プリンタ歯車、カメラ可動部、コネクタ部品 寸法安定性+滑り性+耐疲労性
一般産業機械 ロール、滑車、搬送部品 摩耗耐久+低騒音+軽量化

用途別の選定ポイントについては、用途別の選定ポイントに関して解説でさらに詳しくご紹介しています。

よくある質問

Q1. POM樹脂の中でも、どのグレードを選ぶべきか迷ったときの判断基準はありますか?
POM樹脂の選定では、使用環境(温度・荷重・摩擦条件)を明確にし、ガラス繊維や潤滑剤の有無で剛性・摩耗特性が大きく変わる点に注意が必要です。たとえば高強度用途では「POM-GF」、摺動部品では潤滑改質タイプが有効です。

Q2. POM樹脂はどの程度の耐摩耗性を持ち、金属代替として本当に使えるのですか?
POM樹脂は摩擦係数が低く、摺動用途において金属ギアの代替として広く採用されています。長期使用時も摩耗量が少ないため、軽量化と静音化を両立可能です。ただし高温や強酸環境では性能が低下するため、条件に応じた補正設計が必要です。

Q3. POM樹脂の加工時に注意すべき点や、変形を防ぐコツはありますか?
加工時は、切削熱による変形とバリ発生に注意が必要です。冷却を適切に行い、工具の摩耗状態を管理することで寸法精度を維持できます。また、湿度や温度による膨張も考慮してクリアランスを設計するのがポイントです。具体的な切削条件については、加工条件に関して解説しています。材料特性の詳細はJIS規格を参考にしてください。

まとめ:POM樹脂を正しく理解して活用する

設計・加工の現場において、POM樹脂の持つ「高強度」「優れた耐久性」「寸法安定性」という特性を活かすためには、素材の仕様を正しく理解し、実装環境・加工条件・検査体制を統合的に管理することが不可欠です。名称だけで選定を済ませるのではなく、グレード・物性・加工履歴まで踏まえることで、部品精度・寿命・コスト最適化を同時に達成できます。

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